神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『『食道楽』の人 村井弦斎』余話(その10)


志賀直哉が、歌舞伎座で「桜の御所」を鑑賞していたのとほぼ同じ頃、当時25歳の読売新聞の記者も鑑賞していた。彼は「歌舞伎座評 下」(読売新聞明治37年4月8日)で


櫻の御所は村井弦斎氏前半生の歴史小説中最も婦女子に愛読されたものださうだが、筋ばかりで内容の乏しい作である。敵同志の恋といふ題目は旧いながらも書き方がよければ面白く読まれるが、この作では只徳川時代の読本の拙劣な者と同じく、斬新な叙述はない。かく小説として左程価値のない者を別に工夫することもなく、只濫りに取捨したのだから、一層つまらなくなつて、原作を読までこの芝居だけ見ては筋さへ呑み込めぬ程であつて(略)。

と記している。いささか厳しい評価である。
この本名を正宗忠夫という記者、その筆名は正宗白鳥という。
(『正宗白鳥全集第24巻』所収)