鴎外の日記には、勿論トンデモではない人、例えば山田珠樹や、金尾種次郎なども登場して楽しめるのだが、そろそろ幸田露伴の出番としよう。
片岡貢司「太平洋のムー大陸」(『公論』昭和17年5月号所収)によれば、
この象形文字について傾日私は幸田露伴博士から興味深い御教示を得た。漢字の『無』の字は、未だに定説がない。どういふわけでかうした形が出来たかはつきりしないが、この埃及象形文字[チャーチワードによれば、ムー大陸の滅亡を物語るとされる埃及の複合的象形文字のこと]とよく似てゐるやうに思はれぬでもない。然もムーが『存在しない』といふ意味から云つても、またその字音から云つても『些か面白いな』と云はれた。むろん座談的にこの話に肩を持たれたものと思ふけれども、私には甚だ興味が深かつた。序でながら、ムー国を表はす記号が正方形であるのは、正方形によつて一定地域を表はし、地域には東西南北の四方位の概念を必然的に伴つたからで、これは漢字の国の字が、元来囗であつたと同断であつたことも、露伴博士から御教示を受けた。
露伴って、確か、荒俣宏の『帝都物語』にも登場していたから、多少トンデモない人かなとは、思っていたが、ムー大陸と関係していたとは、驚き。大塚英志先生もこれにはビックリ!?
この15ページにもわたり、チャーチワードのムー大陸説を紹介した片岡なる人物の正体は不明。同じ昭和17年5月には、やはりムー大陸説を詳細に論じた仲小路彰の『上代太平洋圏』(世界興廃大戦史 東洋戦史第24巻。昭和17年5月30日、戦争文化研究所発行・世界創造社発売)が刊行されているが、クラブシュメールやスメラ学塾のグループの中には片岡の名前は見出せない。
片岡は、この記事の結論として、
ムー大陸が太平洋にあつたといふ以上、またかかる説が漸次日本人の間に行はれつつある以上、否定すべきにせよ肯定すべきにせよ、これに学問的裁断を与ふることこそ、日本学会の責任でなければなるまい。
とし、また、同誌の昭和17年8月号にも「地質学的に見たるムウ大陸」を8ページにわたり解説している。ジャーナリストか、はたまた、科学者か、謎の人物なり!
今回、鴎外や露伴の周辺に色々アヤシゲナ怪人を発見できた。奇絶、怪絶又壮絶!!。
す、すまった。また、ヨコジュンさんのマネをしてしまった(笑