12 トンデモ・バスター島田春雄がシュメールを斬る!(承前)
島田春雄の『日本語の朝』(昭和19年6月)所収の「常若(とこわか)なる古典」(初出は「公論」昭和17年7月号)によると、
近時日本に於て唱道されつつある奇々怪々なる古代日本論を見よ。先史時代の土中より亡滅民族スメール人を呼び起し、語音の類似を以て不遜にもスメールと「すめらみこと」とを結び合わせ、同族同祖の名を冠しようとする。
彼等は、日本の古典を無視し、皇統におぞましき言挙げを試みる以外何の為すところありや。古代スメール人と、日本民族との間に忠誠行為の連続貫行が証明されない限り、いかに石器を挙げ、枯骨、土器、片々たる語彙の相似を挙例しようとも、決して日本国体の尊厳さを実証する所以とはならない。彼等の理論根拠となる先史時代に於ける人類協同説、或はミウ大陸陥没説も、西欧の一神教的なインターナショナリズムの擬装か、然らずんば補助学を正史と思惟する抽象思弁論の錯誤幻覚でしかない。
藤野七穂氏は、「偽史と野望の陥没大陸−”ムー大陸の伝播と日本的受容”」(『歴史を変えた偽書』所収)で、上記「常若なる古典」中の、古代スメール人と「すめらみこと」の語音の類似をもって同祖同族を説くのは、仲小路彰らの説か、と推測しているが、昭和17年当時スメラを盛んに唱えていたのは、仲小路・小島らのグループだから、おそらくそのとおりであろう。
ただし、スメラと「すめらみこと」を結びつけたのは、仲小路らが初めてではない。中山忠直の『我が日本学』(昭和14年7月初版、昭和14年9月改訂)によれば、
天孫民族をヒッチト民族なりとする人に石川三四郎がある。彼もまた古事記神話とヒッチト民族の合致や、三種の神器を論じ、『スメラミコト』をスメル語の「統(スブ)る」より出しと論じてゐる。スメル民族を天孫民族とする人々に、原田敬吾、三島敦雄、戸上駒之助などの諸氏があり、ことに三島の研究は最も詳細を極め『天孫人種・六千年史の研究』があり、日本との伝説の合致はもとより、日本の地名、古代神の名、神社の祭神、三種の神器の一致までをもって、天孫民族がスメルの正系たるを主張し、天皇陛下を「スメラミコト」と呼ぶのを「スメルのミコト」と解してゐる。
三島の書は、昭和2年12月、スメル学会(愛媛県越智郡大三島所在)発行。
石川の『古事記神話の新研究』は大正10年4月、戸上駒之助の『日本の民族』は昭和5年4月発行。