神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

桜澤如一と関根康喜(関根喜太郎)(その1)


桜澤如一が顧問時代の食養会において、会長だった関根康喜については、3月15日に言及したけれど、小田光雄氏が既に「日本古書通信」で2回書いている(「関根康喜関根喜太郎=荒川畔村」(平成16年10月号)、「池本三喜夫と関根喜太郎」(17年7月号))。氏が触れていないことが少しわかったので、櫻澤と併せて特集にした。


櫻澤の『食物による健康と幸福』(昭和14年3月、成史書院発行)は、まさしく関根康喜が編者で、発行者が関根喜太郎。この両関根が実は、同一人物だということは小田氏が明らかにされた。さて、同書によると、

此の頃、ユダヤ問題の権威者とか言はれるのでありますが、それの権威者としては、日本に私の最も尊敬する若宮卯之助先生がありましたが、残念なことに先日おなくなりになりました。其の外に、只今ハルピンに行つて居りますが、陸軍大佐の安江さん、それから赤池濃氏、それに陸海軍の首脳部に二、三同志がありまして、それ等の人達が集まりまして、国際政経学会をやつて居ります。それで此の国際政経学会では『国際秘密力の研究』と云ふ書物を、昨年から出し始めまして、さうして極く特殊なお方にだけ配布して居つたのであります。(中略)
偶々昭和11年の末に帰りましてから、久邇宮朝融王殿下の御言葉を拝しまして、殿下の健康に付て御指導を拝命しまして、それから暫く内地に留まれと云ふことで、彼此三年近くになります。


昭和11年2月に設立された国際政経学会は、外務省の外郭団体と推測されている団体である。その機関誌『国際秘密力の研究』第一冊は、昭和11年11月発行。櫻澤の名前は、第一集にのみ見られる。櫻澤は、この反ユダヤ主義者の牙城とされる団体の初期の同人であったわけだ。
櫻澤が「最も尊敬する」とする若宮卯之助は、慶応義塾大学で社会学を教え、「中央新聞」「日本新聞」の主筆もした、反ユダヤ主義者(『ユダヤ人陰謀説』(デイヴィッド・グッドマン、宮澤正典著)による)。


『国際秘密力の研究』第一冊では、櫻澤は「ヨーロッパ特にフランスに多年滞在しかの国情特に猶太通として第一人者と称して過言であるまい。フランス総合医学の闘士ルネアランヂイの「西洋医学の没落」の訳書其他多数の著述がある」と紹介されている。


また、同書の「黒田大塚氏両氏にナチス・ドイツの排猶太人運動を聴く」によれば、昭和11年9月に開催された会合で、黒田礼二と大塚虎雄が客となり、宇都宮希洋、安江仙弘、櫻澤、増田正雄が参加している。黒田と櫻澤は、少なくともこの時点から面識があることになる。黒田は「新聞界の名士 欧州事情に精通し、ドイツに最近の数年間滞在してナチスの排猶運動の現地体験者」として紹介されている。


さて、『食物による健康と幸福』の巻末を見ると、成史書院発行で書物展望社編集部編『聖戦短歌集』なる書の広告が載っている。八木福次郎著『書痴 斎藤昌三書物展望社』の巻末リストには挙がっていないが、書物展望社発行でもないし、斉藤の著作でもないから、挙がっていないのは当然かもしれない。
関根と書物展望社とは、何か関係があったのだろうか、と『書物関係雑誌細目集覧二』中の「書物展望」の目次索引を見ると・・・