神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

大川周明とトンデモ本の世界(その6)


3 大川周明と櫻澤如一


 藤澤親雄は、数冊のトンデモ本を出しているが、酒田市立光丘文庫には収蔵されていない。これに対して、藤澤を「畏友」と呼んだ櫻澤如一の本(トンデモ本とは言えないが)は、次の三冊が収蔵されている。

 
 『新しい榮養學』(昭和17年)
 『ナゼ日本は敗れたか』(昭和29年)
 『未開人の精神と日本精神』(昭和18年)


 大川と櫻澤にはどのような関係があるのだろうか。

 まず、桜澤について簡単に触れておこう。


 この人についても、ヨコジュンの『日本SFこてん古典』第1巻で『バイキンの国探検』(昭和18年)が紹介されている(それにしても、つくづく同書は素晴らしい。私のブログで言及する人が何人も登場してくる。というか、「そこから選んでいるんじゃないのか?」、って・・・)。ヨコジュンの最近の作品『古書ワンダーランド②』第84回「謎の民間医学書」にも桜澤の『心臓を入れ替へる法』が登場する(ヨコジュンによると、奥付はなく、刊行年月不詳。ただし、復刻版によると元版には奥付はないが、昭和19年5月発行とされている。)。同書によると、桜沢は「無双原理研究所の所長にして民間医学者。治療対決で、あのシュバイツアー博士に勝った(中略)という人物。ほとんどの病気は塩を体に擦り込めば治ると、主張している。著書は全貌が使めないが、いわゆる科学解説SFも数冊ある。」


 更に、黒岩比佐子さんの名著『『食道楽』の人 村井弦斎』では、「日本の近代食養思想の先駆者ともいえる存在」である「石塚左玄からは多くの弟子が育ったが、その中で最も有名なのはフランスに渡って食養法の普及活動を行った桜沢如一で、「ジョージ・オーサワ」の名前で日本より海外で知られている。桜沢が広めた食養法「マクロビオティック(正食)」は、現在も世界各国に実践者がいるという。」と紹介されているのだ。


 さて、大川と櫻澤の関係については、桜澤の伝記『食生活の革命児』(松本一朗著)にずばり書いてある。



食養会のしごとをやっている頃、桜沢の自宅は大磯にあって、大津の講究所へもそこから通って指導していたが、その自宅を昭和17年に妙高高原に移した。(中略)
妙高高原時代のエピソードとして、佐野学を引き取って療養させた話がある。(中略)糖尿病の末期で、顔は異様なむくみを見せていた。19年7月に大川周明からこの話を聞いた桜沢は東京まで迎えにゆき、妙高へ連れ帰った。佐野はわずか一週間の食養で奇跡的に回復した。


 この大川や佐野との関係については、その事実関係の一部が『大川周明関係文書』(大川周明関係文書刊行会)によって確認できる。佐野学の昭和19年7月9日付け書簡によると、

本日賢台のお話ありたりとて櫻澤如一氏御来訪下され種々歓談、同氏の無双原理殊の外愉快に存じ、同氏著作数冊異常の興味を以て読了しました。創意煥発の奇士、日本にもかかる人あるかと存じ尊敬をもちました。御介紹[ママ]の御好意を感謝致します。

 また、昭和19年8月21付け書簡では

小生病気大分よろしきにつき22日退院し、28日頃甲州北巨摩郡日野春村の櫻澤氏の許に赴き、同氏の食用生法を会得し健康取り戻しをやつてくるつもりです。

 別のエピソードになるが、『大川周明日記』(大川周明顕彰会編)中、昭和18年1月22日の条には、「午前櫻澤氏の『未開人の精神』序文、及び新亜細亜巻頭言を書く。」とある(『未開人の精神と日本精神』(昭和18年発行)の序文は確認できたが、得るものはなかった。)。


 大川が、単なる櫻澤の著書の読者である以上の関係があることは、確認できるのだが、その接点となるものがわからない。結論からいうと、今でもわからないのだが、判明した事実だけ報告しておこう。

 
 櫻澤の『健康戦線の第一線に立ちて』(昭和16年6月発行)によれば、


私は昨年中野正剛氏がこのナチス・ドイツ聖典(引用者注:ダレエの『血と土』)を持つて帰朝されたのを聞き、これを畏友黒田礼二君に依頼して翻訳を得、有馬頼寧の序文を得て春陽堂より先日出版させたのであります。


とあり、また、藤澤親雄についても「畏友」と呼んでいる。この二人の畏友のうち、藤澤と大川の関係については、既に見たとおり、農商務省老壮会、満鉄東亜経済調査局を通じて、深い関係にあるが、もう一人の黒田とは何者だろうか。


『日本近代文学大事典』から抜粋すると、


黒田礼二(くろだれいじ)明治23.1〜昭和12.6
評論家。本名岡上守道。大正5年東京帝大法科大学経済科卒。満鉄に入社。欧州に留学。12年朝日新聞社入社。ベルリン特派員となる。昭和10年朝日新聞社退社。ドイツ経済通信社、高知新聞などに関係した。

 ん、満鉄、岡上守道。どこかで聞いたことない?
2月20日に書いた満鉄東亜経済調査局のメンバーに出ているではないか。行き当たりばったりのブログのようで、ちゃんと、伏線が張ってあったのね、なんちて。


(その7へ続く)


注:藤澤のトンデモ本、『世紀の預言』、『神國日本の使命』は、2月3日に言及した島田春雄らとの座談会で、島田につるし上げをくらった結果、「自発的に絶版の処置」が執られた。恐るべし、トンデモ本バスター、島田春雄