夢野久作は、長編推理小説の傑作『ドグラ・マグラ』(1930
年)で「狂人の解放治療」の理想を抱く精神医学者に焦点を当てて
いる。筆者が故王丸教授から直接聴取したところによると、夢野久作
は、その精神医学的知識を父親の杉山茂丸と黒竜会の同志であった精
神医学者王丸勇(のち久留米医大教授)から得ていたのである。古峡
は自分の『ドグラ・マグラ』を実現しようという夢を描いたのかもし
れない(もっとも夢野の作品を読んで開業を思い立ったとは考えられ
ない。これはあくまで譬喩である)。