神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

『明治文学研究夜話』(柳田泉著)から


そのときは、大正12年9月1日午前11時
58分という。正午少し前である。私はその
とき何をしていたか、丁度飜訳物の校正のた
め早稲田の印刷所に出かけていたときで、朝
小雨があがり、傘をもち足駄をはき、麦稈の
カンカン帽を冠っていた。十二時近くなった
ので、昼食を食うつもりで、鶴巻町の通りに
出て、ふと角田という馴染みの古本屋の前を
通ったので、何かありはせぬかと、ともかく
入って、主人と二三語話を交えたばかりのと
きである。いきなり、ぐらぐらと来た。(中
略)出るか出ない中に、私の今立っていた
店頭の背後の六尺本棚が二つともガッパと倒
れて、私の残して出たカンカン帽と傘をめち
ゃめちゃにしてしまった。